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サソリ

 

 

それは単に気まぐれな行為だったと言ってもいい。

朝餉を終え、いつもの様にサクラが鼻歌を歌いながら食器を洗い、布巾で丁寧に拭き、元にあった場所に戻そうと腕を伸ばした
ただ、それだけだ。

窓を透かして入る、斜めごしの冬の日差しが、サクラの柔らかな肌に当たって眩しく光を散らした。
それに触れたいと率直に思っただけだ。

いきなりサスケに腕を取られ、サクラは翡翠の瞳を驚きで大きくした。

サスケくん?と問う、唇に己のそれを近づけて 口づけることを示唆すると
案の定、体を少しだけ強ばらせ、瞳をぎゅっと音がするほど強く閉じた。


それは、許可というよりも拒否に近いような、サクラの覚悟が伝わってくる。


最初は啄むように唇だけを重ねて滑らせて、皮膚の薄さや熱を確かめるように押し付けると
まだ緊張して固いサクラの腰を引き寄せる。
半ば強引に上半身を腕に抱き込むと、右手をサクラの後頭部に添えて自分のいいようにサクラの角度を調節できるように整えた。

チロリと舌先でサクラの唇に触れると、逃れようと後ろに力が入る。
それを許さないように抑止しながら、口づけを深めていった。

朝っぱらから突如与えられた官能な刺激に怯えるようにサクラは腕の中で体をよじる。
逃げる肢体に少しだけ従って力を緩めると、唇が離れた瞬間、案の定非難の言葉を吐いた。

「…ッダメだよ!サスケくん」
「なんで」
「なんでって…あさ、朝だよ?」
「朝したら、いけないのか?」
「朝するものじゃ…ないと思うの」
「でもしたい」

サクラの答えを待たずに再度、唇を重ねると
さすがに肩を押して抵抗してきた。

そんなサクラのささやかな抵抗をノラリクラリと交わしながら、居間のソファに押し倒し
自然とサクラの腰の上に跨がる体勢になると、恥辱に堪えきれなくなったのか、サクラが両手で顔を覆った。
「明るい所はやだぁ…」
「明るいからいいんだろーが」
サクラを支配していくような歪んだ悦楽を感じて声が上ずる。思わず固唾を飲み込んで初めて自身が興奮しているのに気がついた。
サクラの愛用してる部屋着がめくれて腹部が晒されている。


と、一筋の傷に気がついた。

これは…刀傷…か?

薄い桃色の皮膚がぷくりと盛り上がり『医療忍者』に相応しくない深さを物語っている。
思わず傷口をそっと指でなぞると、サクラは跳ね上がるほど驚き、慌ててその傷を左手で隠した。

「なんだこの傷は…」
「…これは」

嫌な予感がしてサクラの体をねじってうつ伏せにし、押さえつけた。背中が全てはだける程、部屋着をまくり上げる。
腹部にあった傷とほぼ同一の場所に同じ刀傷があった。

「サ…サスケくん」
苦しそうに呻くサクラは小さく震える。

 

「…貫通してやがる」
思わず苦々しい声が零れ落ちた。

 

「あ…暁と戦った時に…。気持ち悪いでしょ…だから明るいのは嫌だって言ったのに「誰がやった?」
「サスケくん?」
「暁の誰だ。教えろ」

「…元砂隠れの…サソリ」
「…」
「チヨバア様の孫で、傀儡使いだったの」


サソリ。


聞いたことのない名だった。

短い時間だったとはいえ、暁に加担していたのも事実。サクラの口からその組織名が出ることに少し驚いたが、
木の葉も、暁に照準を当て動いていたのだ。
戦闘があったことは、至極自然な事だと推察できた。

以前より、サクラが砂隠れと密接な関係を築いているな、とは感じていたが
きっとこの事が発端になったのであろう。

「サソリの剣に刺されて倒れた私を、チヨバア様が助けてくれたの。これはその時の傷…」

いつまでも黙ったままサクラの背を凝視してることに、異変を感じたのだろう。
サクラが不安げに振り返りながら、そう呟いた。

 

サクラにとってこの傷は闘いの勲章となり、永久に残るだろう。いわば誇りだ。
だが―――…。


だが、
このなんとも言いようのない苛立ちはなんだろうか。

大切にしていたものを陵辱されたような苦しく、黒い苛立ちだ。

自分が木の葉を出て3年。サクラに己の知らない空白の時間が存在するの致し方ない事なのに。

自分の知らない所で、
自分の知らないうちに
サクラの体に傷が刻まれる。

その事実に強い嫌悪を感じた。


サクラを押さえつけたまま、なだらかな背中のラインにそってなで上げれば、
とても普段、戦場に立ってるとは思えないほど無防備で滑らかできめ細かい素肌の感触を味わうことができる。

それは自分が最も愛してやまない部分なのだと思い知る。

守りたい、と切なくなる気持ちとは裏腹に
サクラを貫けるのは自分だけだとどこか思っていた、仄暗い征服欲にまみれた自身の本質と向き合う。
黒く冷たい感情は『嫉妬』という感情に変換され、その矛先は結局サクラに向けられるというのに。

その傀儡使いもさぞかし堪能したのだろう。
官能と苦痛のはざまに揺れる、サクラの表情を。

奥歯を噛み締めて堪えるくせに、甘やかな吐息となって散る色欲を。

痛みと官能を良く知るものだから、これを残したのか?
女の体をこうもやすやす貫けたのには訳があるのだろう。

サクラがそれほどまで相手を追い詰めたという事と、
生かしてはおけないという覚悟。そして、自分の生きた証をサクラに留めておくために。
生娘であるサクラがその意味をいつか知ると知っていながら。


自分が『その』表情を知るよりも前に、そいつは知ったって事だ。
サクラの皮膚を貫く感触と、恍惚を。


「ね…サスケくん、ホントにもうやめようよ。なんか今日のサスケくんちょっと怖いよ…」
いつの間にか涙目になって懇願するサクラに気がつき、我にかえる。


「いやだ」
そう一言冷たく突きつけ、サクラの柔肌に舌を這わせる。
「…うぁ…ッ」
ピクンと小さく跳ねるのは、サクラの雌の本能から来る反応で、まんざらじゃない。


この傷が、結局はいつまでもサクラを求める理由になるのだ。

安心しろ、
一人胸の中でごちる。

お前のつけた傷ごとサクラを掻き抱いてやる。
クツクツと喉の奥で嘲笑いながら、サクラを抱きしめるべく指先をスルリと乳房に滑らせた。

 

END

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